毒性

作用機序
毒性試験
人への毒性

作用機序

クロルピリホスは、有機リン系殺虫剤の1つです。他の有機リン系殺虫剤同様、殺虫作用は酵素アセチルコリンエステラーゼ阻害によるもので、結果的に神経伝達物質であるアセチルコリンが神経終末に蓄積し、その結果、神経が過度に刺激され対象害虫を致死させます。同様に、有機リン系殺虫剤の高濃度暴露で哺乳動物に毒性症状が発現します。

哺乳動物においてアセチルコリンエステラーゼは神経組織と赤血球にありますが、赤血球の本酵素は神経伝達と関連していないため、機能が低下しても毒性と関係がありません。

また哺乳動物は、血漿ブチリルコリンエステラーゼ、(偽性コリンエステラーゼ)という別の酵素を持っており、これも有機リン殺虫剤により阻害されます。これは神経組織や赤血球内に見られるアセチルコリンエステラーゼとは別の酵素で、その機能はよく知られていませんが、活性が低下しても有害な影響は認められていません。

この3つのコリンエステラーゼ酵素のうち、血漿等に存在する偽性コリンエステラーゼは、クロルピリホスを含む有機リン系殺虫剤による阻害作用に、最も敏感に反応します。赤血球や神経組織に見られるアセチルコリンエステラーゼ酵素を比較すると、赤血球中の酵素は神経系酵素より高い感度で有機リン剤に反応しますが、毒性の症状が認められません。血漿のコリンエステラーゼと赤血球アセチルコリンエステラーゼ活性が低下します。

さらに動物実験では、クロルピリホス投与に対して脳内アセチルコリンエステラーゼ活性がわずかに低下しても、有毒作用が発現しないことが確認されています。これらの実験では、脳のアセチルコリンエステラーゼ活性が60%以上低下すると毒性症状が出現することが判明しました。このデータでは、クロルピリホスが哺乳動物に毒性を生じさせるには、脳のアセチルコリンエステラーゼを大幅に低下させることが必要であると確認されたことになります。

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毒性試験

クロルピリホス原体およびクロルピリホス製剤の健康に対する影響については、これまで、各国の行政機関が推奨する実験動物を用いた毒性試験で広範囲に調査されてきました。さらに、適切に管理された各種安全性試験が実施されています。

動物の毒性試験は有効成分と製剤を用いて実施されています。動物試験では毒性をいろいろな角度から調べるために、非常に大量に投与されることがあります。

急性毒性

急性暴露研究の主な目的は、事故、誤用、または(自殺目的などで)故意に大量摂取することにより発生しうる有害作用を判定することです。皮膚と目の炎症の可能性、および皮膚の感作性を予測することもこの一部です。

経口毒性および経皮毒性

数々の動物実験においてクロルピリホスは、経口暴露、経皮暴露とも急性毒性は中程度に分類されています。

クロルピリホス製品の急性毒性は、一般的にクロルピリホス原体の毒性より低くなっています。毒性は製剤によっても異なります。マイクロカプセル化製剤および顆粒製剤(DF)は、乳剤(EC)よりさらに毒性が低くなっています。

皮膚と目の炎症(刺激性)

皮膚と目の炎症に関する毒性試験は、化合物の刺激作用と腐食作用を評価するために行われ、以下に示す特定の標準に沿って急性毒性の分類にも使用されます。

  • 刺激性なし
  • 陽性(炎症を示すが、重度ではない)
  • 軽度、中度、重度、腐食性(炎症の度合いを示す)
  • 反応の可逆性(初期の炎症が一定の期間経過したら、状態が改善されることを示す)

クロルピリホスは皮膚に対する刺激性と感作性はありません。しかしながら乳剤(EC)に長期間もしくは繰り返し暴露すると、皮膚に化学火傷を起こす恐れがあります。顆粒製剤(DF)、水和剤(WP)、マイクロカプセル化製剤および市販品の希釈液は、重度な皮膚の炎症を起こす可能性はほとんどありません。

クロルピリホスはヒトの皮膚からあまり吸収されません。試験結果によると皮膚への吸収率は1~3%です。ただし、濃縮乳剤に長期間暴露をすると吸収され、有害作用が生じる恐れがあります。一方、顆粒製剤、水和剤、マイクロカプセル化濃縮液、もしくは市販品の1%以下の希釈液に単回長期間暴露をしても、皮膚から吸収されたものが有害作用を起こす可能性はほとんどありません。

吸入毒性

クロルピリホスは蒸気圧が低いため、常温で蒸気が吸入されて急性毒性レベルに達する危険性はありません。ラットを用いた反復吸入毒性試験では、クロルピリホスを空気中濃度0、75、147、296μg/㎥(各々0、5、10、21 ppb)で1日6時間、1週5日間で13週間、鼻から吸入暴露させた結果、毒性症状はまったく観察されず、血漿、赤血球、脳のコリンエステラーゼを初め、各種検査項目にも何の影響も認められませんでした。実験で用いた296μg/㎥は、クロルピリホスの空気のにおける完全飽和状態に近い濃度で、これは管理された実験室で人工的に作り出された状態を除いては、現実にはほぼありえない状態です。

慢性毒性

経口による反復暴露試験では、コリンエステラーゼ酵素の阻害に関連した検査項目にのみ影響が見られました。臓器や組織には何の影響も認められませんでした。ラットを使った長期間の食餌実験では、無作用量(NOEL)は0.1 mg/kg 体重/日で、この投与量で、血漿と赤血球コリンエステラーゼに変化はありませんでした。1日に3.0 mg/kgラットの2年間投与試験でも何ら悪影響は観察されませんでした。

発がん性

クロルピリホスは、ラットとマウスを使った2年間の食餌実験から、発がん性は認められませんでした。

変異原性

クロルピリホスは、今日まで数多くのインビボ(生体内)とインビトロ(試験管内)の方法で変異原性試験が、行われてきました。その結果、ごく軽微な変異原性を示す報告がありました。

催奇形性

クロルピリホスは、動物試験で催奇形性はみとめられませんでした。

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人への毒性

ボランティアによる臨床研究

クロルピリホスの安全性に関しては、数多くの動物実験データに加え、ボランティアによる臨床研究データもあります。単回経口投与、もしくは反復投与をうけた臨床試験では、血漿ブチリルコリンエステラーゼのレベルが60%以上低下したこともありましたが、赤血球アセチルコリンエステラーゼには何の影響もありませんでした。さらに同研究では毒性症状は全く認められませんでした。クロルピリホスは主代謝物(TCP)に迅速に代謝され、尿中へ排泄されました。体内での主代謝物の消失半減期は27時間で、これは基本的に経口摂取した90%以上のクロルピリホスは4日で消失することを示しています。また、クロルピリホスをボランティアの前腕に塗布した試験では、皮膚からの吸収量はごくわずかに認められました。

中毒症状

ヒトにおける有機リン系殺虫剤中毒症状には、頭痛、めまい、協調運動障害、筋肉のけいれん、震え、吐き気、腹部の鋭痛、下痢、発汗、縮瞳、視力障害、多量の唾液分泌、流涙、多尿、胸の苦しさなどがあげられます。もちろんこれらの症状の多くは、有機リン中毒独特のものではありません。血液検査による血漿ブチリルコリンエステラーゼ酵素の測定を行って、上述の症状を起こした原因は有機リン殺虫剤暴露なのか他の原因なのかを、区別することが可能です。

実際に暴露してから上述の兆候が明らかになった場合、直ちに医師の治療を受けてください。処置法などで不明なことは、医師から下記に電話してお尋ねください。

財団法人 日本中毒情報センター (但し、通話料は相談者負担)

  • つくば (365日、9~21時)
     一般市民専用電話(無料) 029-852-9999
     医療機関専用(1件2000円) 029-851-9999
  • 大阪 (365日、24時間対応)
     一般市民専用電話(無料) 072-727-2499
     医療機関専用(1件2000円) 072-726-9923

クロルピリホスの安全性についてさらに質問がある場合は、製品安全データシート(MSDS)をご覧ください。そこには国内の連絡先と詳細が掲載されています。

誤ってもしくは故意に過度に暴露した際の対応として、解毒剤があります。医療機関では解毒剤を投与する前に、血清、赤血球のコリンエステラーゼのレベルの少なくとも一方を必ず検査します。アトロピン注射が解毒には望ましい方法です。2-PAM/プロトパムなどのオキシムは、初期の段階で使用すると治療効果がありますが、オキシム単独では用いず、アントロピンと併せて用いた方が効果的です。治療内容は患者の症状に応じて医師が判断して治療内容を決定します。例外はありますが、ほとんどはクロルピリホスの重度の中毒症状を呈する場合でも、適切な治療を受ければ速やかに回復し、長期間にわたる影響はありません。今までの事例では、中程度の中毒症状を呈した場合、解毒剤を用いなくても速やかに完全に回復しています。

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